-
歯列矯正の費用と経済的背景を考える
歯列矯正は、決して安価な治療ではありません。自由診療が基本となるため、保険適用の治療に比べて費用は高額になりがちです。一般的に、全体の歯並びを治す本格的な矯正治療の場合、検査費用、装置費用、調整費用、保定装置費用などを合計すると、総額で数十万円から百数十万円程度かかるのが相場と言われています。特に、目立ちにくい舌側矯正や、オーダーメイドのマウスピース型矯正装置(インビザラインなど)を選択した場合、従来の表側のワイヤー矯正に比べて費用が高くなる傾向があります。この費用負担の大きさから、「歯列矯正はお金に余裕のある人がするもの」というイメージが根強く存在します。確かに、一昔前までは、そのような側面があったかもしれません。しかし、現代においては、状況は少しずつ変化してきています。まず、支払い方法の多様化が挙げられます。多くの歯科医院では、現金一括払いだけでなく、クレジットカード払いやデンタルローン、院内分割払いといったシステムを導入しており、月々の負担を軽減しながら治療を受けることが可能になっています。これにより、まとまった資金がなくても、計画的に治療を開始できる人が増えました。また、矯正治療に対する価値観の変化も見逃せません。かつては「見た目を気にする人がやるもの」という認識が強かったかもしれませんが、近年では、歯並びや噛み合わせが全身の健康に及ぼす影響(虫歯や歯周病のリスク、顎関節症、消化不良、発音など)が広く知られるようになり、単なる審美目的だけでなく、健康増進やQOL(生活の質)向上のための投資として捉える人が増えています。特に、若い世代を中心に、将来の自分への投資として、早期に矯正治療を選択する傾向も見られます。さらに、成人矯正の普及も背景にあります。子供の頃に矯正治療を受ける機会がなかった人たちが、経済的に自立した後に、自身の意思で治療を始めるケースが増加しています。これは、矯正技術の進歩により、成人でも効果的な治療が可能になったことや、目立たない装置の選択肢が増えたことも後押ししているでしょう。もちろん、依然として経済的なハードルが存在することは否定できません。しかし、医療費控除の対象となる場合があることや、自治体によっては特定の条件を満たす場合に助成金制度を設けているケースもあります。