二重歯列は比較的多く見られる歯並びの問題ですが、その原因は様々です。中でも「過剰歯」の存在は、時に診断を複雑にし、治療計画にも特別な配慮を要するケースがあります。過剰歯とは、その名の通り、通常よりも多く形成されてしまった歯のことで、特に上顎の前歯部周辺に出現しやすい傾向があります。この過剰歯が永久歯の正常な萌出を妨げたり、歯列を乱したりすることで、複雑な二重歯列を引き起こすことがあるのです。今回は、過剰歯が原因となった二重歯列の一症例とその治療アプローチについて具体的にご紹介します。Aさんは10歳の男の子で、上の前歯がなかなか生え揃わず、歯並びもガタガタしていることを心配した保護者の方と一緒に矯正歯科を受診されました。お口の中を拝見すると、確かに右上の中切歯(一番前の歯)が本来の位置よりもかなり唇側に傾いており、隣の歯と重なり合っていました。さらに詳しく調べるためパノラマレントゲン撮影を行ったところ、驚くべきことに、上顎の前歯部の骨の中に、本来あるべき歯とは別に、逆向きに埋まっている小さな歯、つまり過剰歯が二本も確認されたのです。これらの過剰歯が、永久歯の正しい萌出経路を邪魔し、結果として前歯が捻じれたり、重なり合ったりする二重歯列を引き起こしていたのでした。このような過剰歯が原因の二重歯列の場合、治療の第一歩は、多くの場合、問題となっている過剰歯の抜歯です。Aさんのケースでも、まずは口腔外科と連携し、埋伏している二本の過剰歯を摘出する手術が行われました。手術は無事成功し、術後の経過も良好でした。過剰歯が取り除かれたことで、永久歯が自然に正しい位置へ移動してくることも期待されましたが、Aさんの場合は歯の傾きや重なりが大きかったため、本格的な矯正治療が必要と判断されました。過剰歯抜歯後、数ヶ月の治癒期間を経て、Aさんはブラケットとワイヤーを用いた矯正治療を開始しました。過剰歯によって押し出されていた右上中切歯を正しい位置に誘導し、全体の歯列を整えていく作業は、慎重な力のコントロールが求められました。定期的な調整のたびに、少しずつ歯が動いていく様子が確認でき、Aさん自身も治療に前向きに取り組んでくれました。約二年間の矯正治療の結果、気にしていた前歯の重なりは完全に解消され、綺麗で機能的な歯並びと噛み合わせを獲得することができました。