歯列矯正治療中に患者さんからよく聞かれる悩みの一つに、「ワイヤーが頬や歯茎に刺さって痛い」というものがあります。これは矯正治療の過程で起こりやすいトラブルであり、その原因を理解し、適切な予防策を講じることが重要です。ワイヤーが刺さる主な原因はいくつか考えられます。最も一般的なのは、歯が動くことによって生じる現象です。歯が予定された位置に移動していくと、歯列のアーチの長さが変化したり、特に奥歯の方でワイヤーが余って後方に飛び出してしまったりすることがあります。これが頬の内側や歯茎に接触し、痛みや口内炎を引き起こすのです。また、食事や歯磨きの際にワイヤーに力が加わったり、ワイヤー自体の弾性によって、ワイヤーの端が元の位置からわずかにずれて粘膜に当たるようになることもあります。さらに、ブラケットにワイヤーを固定している細い結紮線(リガチャーワイヤー)の端が、何かの拍子でほどけたり、飛び出してきたりして粘膜を刺激することも原因の一つです。では、これらのトラブルを予防するためにはどうすれば良いのでしょうか。まず、歯科医院での定期的な調整が非常に重要です。調整時には、歯科医師や歯科衛生士がワイヤーの端が飛び出していないか、結紮線が緩んでいないかなどをチェックし、必要に応じてワイヤーの端を丸めたり、カットしたり、保護材でカバーしたりといった処置を行います。もし、過去にワイヤーが刺さった経験がある場合は、調整時にその旨を伝え、特に注意してチェックしてもらうようお願いするのも良いでしょう。患者さん自身ができる予防策としては、食事内容に気をつけることが挙げられます。極端に硬い食べ物や、装置に絡みつきやすい粘着性の高い食べ物は、ワイヤーを変形させたり、ブラケットから外れさせたりする原因となることがあるため、できるだけ避けるようにしましょう。歯磨きの際も、装置の周りは丁寧に磨く必要がありますが、あまり強い力でゴシゴシと磨きすぎると、ワイヤーに不必要な力がかかってしまうことがあります。優しく、しかし確実にプラークを除去するよう心がけてください。そして、もし口の中に何か違和感を感じたり、チクチクとした刺激を感じ始めたりしたら、放置せずに早めに鏡で確認し、必要であれば矯正用ワックスで保護するなどの応急処置を行い、できるだけ早くかかりつけの矯正歯科に連絡して相談することが大切です。