歯列矯正を考えている方や、すでに治療中の方の中には、ご自身が歯ぎしりをしていることを自覚している、あるいは家族から指摘された経験がある方もいらっしゃるかもしれません。そして、「歯列矯正を始めたら歯ぎしりが悪化するのではないか」「逆に、歯並びが良くなれば歯ぎしりは治るのだろうか」といった疑問や不安を抱くのは自然なことです。歯ぎしり(ブラキシズム)は、睡眠中や日中の無意識下で、歯をギリギリとすり合わせたり、グッとかみしめたり、カチカチと歯を合わせたりする癖のことを指します。その原因は完全には解明されていませんが、ストレス、噛み合わせの不調和、遺伝、睡眠の質、特定の薬剤の副作用など、様々な要因が複雑に関与していると考えられています。では、歯列矯正と歯ぎしりの関係はどうなのでしょうか。まず、歯列矯正治療の初期段階では、装置の違和感や歯が動くことによる痛み、あるいは治療に対する不安などから、一時的に歯ぎしりが誘発されたり、悪化したりする可能性は否定できません。口腔内に異物が入ることで、無意識にそれを排除しようとしたり、安定した噛み合わせの位置を探ろうとしたりして、歯ぎしりや食いしばりが増えることがあるのです。また、歯が移動している過程では、噛み合わせが不安定な時期が生じます。この不安定な噛み合わせが、新たな歯ぎしりを引き起こす一因となることも考えられます。しかし、これは多くの場合一時的なものであり、治療が進み歯並びや噛み合わせが改善されてくると、徐々に落ち着いてくることが期待されます。一方で、歯列矯正によって歯並びや噛み合わせが理想的な状態に近づくことで、歯ぎしりが軽減されたり、場合によっては改善したりするケースも報告されています。不正咬合(例えば、特定の歯だけが強く当たる早期接触や、噛み合わせのズレなど)が歯ぎしりの原因の一つであった場合、矯正治療によってこれらの不調和が解消されると、歯や顎への負担が均等化され、歯ぎしりが起こりにくくなる可能性があるのです。ただし、歯列矯正が全ての歯ぎしりを治せるわけではありません。前述の通り、歯ぎしりの原因は多岐にわたるため、噛み合わせの改善だけでは解決しないケースも多く存在します。
歯列矯正と歯ぎしり悪化する?それとも改善?