「しゃくれ」とも呼ばれる下顎前突の治療において、歯列矯正だけでは十分な改善が見込めない場合があります。特に、顎の骨格の不調和が著しい「骨格性下顎前突」の場合、歯を動かすだけでは限界があり、顎の骨そのものの位置や大きさを変える外科手術、すなわち「顎変形症手術」を伴う外科的矯正治療が検討されます。この治療法は、単に歯並びを整えるだけでなく、顔貌のバランスを大きく改善し、噛み合わせの機能を劇的に向上させることができる一方で、手術という侵襲的な処置を伴うため、そのリアルを理解しておくことが非常に重要です。外科的矯正治療は、一般的に「術前矯正」「顎離断等の手術」「術後矯正」という三つのステップで進められます。まず、術前矯正では、手術後に理想的な噛み合わせが得られるように、歯列矯正装置を用いて歯を並べます。この期間は、一時的に噛み合わせが悪化したり、見た目のしゃくれ感が強調されたりすることもありますが、手術を成功させるための重要な準備期間です。術前矯正の期間は、症例により異なりますが、半年から1年半程度が一般的です。次に、顎の骨の手術が行われます。全身麻酔下で、口腔内から下顎の骨(場合によっては上顎の骨も)を計画通りに切離し、適切な位置に移動させてプレートやネジで固定します。手術時間は数時間程度で、術後は数日から2週間程度の入院が必要です。術後の腫れや痛みは避けられませんが、鎮痛剤などでコントロールします。食事は、しばらく流動食や軟らかいものに限られます。顔の腫れが完全に引くまでには数ヶ月かかることもあります。そして、術後矯正です。手術によって顎の位置が改善された後、最終的な歯の噛み合わせを緊密に仕上げるために、再度歯列矯正を行います。この期間も半年から1年程度必要となることが多いです。外科的矯正治療の最大のメリットは、骨格的な問題を根本から解決できるため、審美的にも機能的にも劇的な改善が期待できることです。横顔のEラインが整い、口元の突出感が解消されるだけでなく、咀嚼機能や発音機能の向上、顎関節への負担軽減なども見込めます。一方で、デメリットとしては、手術に伴うリスク(出血、感染、神経麻痺など)が皆無ではないこと、入院やダウンタイムが必要であること、治療期間が長く、費用も高額になることなどが挙げられます。
しゃくれ治療?外科矯正という選択肢のリアル