歯列矯正治療のハイライトの一つであり、同時に多くの患者さんが少し身構えてしまうのが、月に一度程度の「ワイヤー調整」です。この調整の後、特に初めの数日間は、食事の際に「噛むと痛い!」という経験をすることが少なくありません。私自身も、調整のたびに程度の差こそあれ、この痛みを経験してきました。特に印象的だったのは、治療中期に初めて少し太めのワイヤーに交換された時と、パワーチェーンと呼ばれるゴムで歯を強く引き始めた時です。それまでの調整後の痛みとは明らかに違う、歯の根元からギリギリと締め付けられるような、そして噛むとズーンと響くような、まさに「激痛」と表現したくなる感覚でした。歯科衛生士さんからは「今回は少し強めに力をかけるので、数日は痛むかもしれませんね」と優しく予告されてはいたものの、その言葉の重みを実感したのは、調整後初めての食事の時でした。楽しみにしていた夕食の肉じゃが。いつもなら美味しくいただけるはずが、じゃがいもを一口噛んだ瞬間、奥歯に激しい痛みが走り、思わず顔をしかめてしまいました。まるで歯がグラグラになって、今にも抜け落ちてしまうのではないかと錯覚するほどです。その夜は、ほとんど噛まずに飲み込めるような柔らかいものを選んで食べましたが、それでも歯と歯が少し触れ合うだけでジンジンと痛み、食事が苦痛で仕方ありませんでした。痛み止めを飲んでなんとかやり過ごしましたが、翌朝も痛みは継続。特に前歯は指で軽く押さえるだけで飛び上がるほど痛く、歯磨きすら恐る恐る、という状態でした。このワイヤー調整後の痛みは、矯正装置が歯に新しい、あるいはより強い力を加え、歯を目標の位置へと積極的に動かそうとしている直接的な証拠です。歯は、加えられた力によって歯槽骨の中で少しずつ移動しますが、その際には歯の周囲の組織に炎症反応が起こります。これが痛みの主な原因であり、特に力が強くかかったり、歯の移動量が大きかったりする場合には、炎症反応も強くなり、結果として「激痛」と感じるほどの痛みが生じることがあるのです。太いワイヤーに交換されると、歯にかかる矯正力がより持続的かつ強くなるため、痛みも強く出やすい傾向にあります。また、パワーチェーンは歯と歯の間を詰めるためや、歯を大きく移動させるために使われることが多く、これも比較的強い力を歯にかけるため、同様に痛みを伴いやすい処置と言えます。