歯列矯正を始めてからというもの、私は以前よりもずっと自分の口の中の感覚に敏感になりました。それは痛みや違和感だけでなく、「音」に対してもです。特に静かな夜、ベッドに入って読書をしている時や、集中して作業をしている時に、ふと口の中から聞こえてくる「ミシミシ」という微かな音。それは、まるで古い木造家屋がきしむような、あるいは小さな氷が割れるような、何とも表現しがたい音です。初めてこの音に気づいた時は、正直かなり焦りました。「え、歯にヒビでも入った?」とか「装置がどこか壊れたんじゃないか?」とか、悪い想像ばかりが頭をよぎりました。慌てて鏡で口の中を隅々までチェックしましたが、特に異常は見当たらない。でも、確かに音は聞こえるのです。特に、何かに集中していて、無意識に奥歯を軽く噛み合わせているような時に、その音はやってきます。歯科医の先生に相談すると、「ああ、それは歯が動いている音かもしれませんね。骨が作り変わったり、歯の周りの組織が伸び縮みしたりする時に、そういう音がすることがありますよ。痛みがひどかったり、装置が外れたりしていなければ、心配いりません」と、あっさりとしたものでした。その言葉に少し拍子抜けしつつも、大きな問題ではないと分かり、ホッと胸をなでおろしました。それ以来、この「ミシミシ音」は、私の矯正生活のちょっとしたアクセントのようなものになりました。もちろん、聞こえるたびに「おっ」と意識はしますが、以前のような不安感は薄れました。むしろ、この音が聞こえるということは、私の歯たちがちゃんと仕事をして、理想の位置に向かって少しずつ動いてくれているんだな、と感じられるようになりました。そう思うと、なんだか健気で愛おしくすら感じてきます。とはいえ、やはり気になるのは事実です。特に、新しいワイヤーに交換してもらった後の数日間は、歯が活発に動くせいか、このミシミシ音の頻度が上がるような気がします。その時期は、食事も柔らかいものを選び、できるだけ歯に負担をかけないように気をつけています。そして、心の中で「頑張れ、私の歯たち!」とエールを送るのです。歯列矯正は、単に歯並びを綺麗にするだけでなく、自分自身の体と向き合う貴重な機会を与えてくれているのかもしれません。この小さな「ミシミシ音」も、そんな矯正生活のリアルな一部なのです。
静寂の中のミシミシ音?矯正生活のリアルな響き