生活
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彼が歯列矯正を始めてから辛そうだった
私のパートナーである彼が歯列矯正を始めてから、半年が経った。元々口数の多い方ではないが、輪をかけて無口になったように思う。特に、月に一度の調整日から数日間は、家の中の空気が少しだけ重くなる。大好きだったステーキやすっぱいガムを、彼が口にすることはなくなった。夕食のメニューに悩んでいると、「何でもいいよ。食べやすいやつで」と力なく笑う。その笑顔が、私には少しだけ寂しそうに見える。彼は決して「痛い」とか「辛い」といった弱音を吐かない。でも、私には分かる。食事の時、慎重に、そしてゆっくりとしか咀嚼できない様子。時々、ぼーっとしながら頬の内側を舌で探っているような仕草。夜中に、ふと目を覚ますと、彼が洗面所で鏡を見ながら、口の中に小さなワックスを押し込んでいることもある。きっと、口内炎ができて痛むのだろう。そんな彼の姿を見ていると、何もできない自分がもどかしくなる。私がしてあげられることなんて、本当に些細なことだけだ。調整日が近い週末には、彼の好きなカボチャでポタージュスープを作ったり、ひき肉で柔らかいハンバーグを作ったりする。彼が痛みで食欲がない時は、無理に勧めず、栄養ドリンクやゼリーをそっと差し出す。そして、たまに彼が「見て、少し動いた気がしない?」と歯を見せてきた時には、大げさなくらいに「本当だ!すごい綺麗になってる!」と一緒になって喜ぶ。それが、私が彼にできる精一杯の応援だ。矯正治療の本当の辛さは、本人にしか分からない。だからこそ、私はただ、一番近くで彼の小さな変化に気づき、静かに寄り添う存在でありたい。彼の長い戦いが終わるその日まで、私は彼の最高のサポーターでいようと心に決めている。