歯列矯正治療を受けている方から、「歯を動かしていると、時々ミシミシとかキシキシという音がするのですが、大丈夫でしょうか?」というご質問をいただくことがあります。多くの場合、この種の音は歯が予定通りに移動している過程で生じるものであり、過度に心配する必要はありませんが、その原因と注意すべき点について解説いたします。歯列矯正中に聞こえる「ミシミシ」や「キシキシ」といった音の主な原因は、歯が顎の骨の中で動く際に、歯の根を取り囲む歯根膜という組織や、周囲の骨が変化することに関連しています。歯に矯正力が加わると、歯根膜は圧迫されたり引き伸ばされたりします。また、歯が移動する方向の骨は吸収され、反対側には新しい骨が添加されるという「骨のリモデリング」という現象が起こります。これらの組織の変化の過程で、微細な音が発生することがあるのです。これは、家をリフォームする際に柱や壁がきしむ音に似ているかもしれません。また、矯正装置自体が音の原因となることもあります。ブラケットやワイヤーといった金属製またはセラミック製の装置が、食事や会話、あるいは無意識の食いしばりなどによって微細に擦れ合ったり、きしんだりすることで音が生じることがあります。特に、ワイヤーを交換したり、矯正力を調整したりした直後は、歯や装置にかかる力が変化するため、音を感じやすい傾向にあります。これらの音は、通常、治療が順調に進んでいるサインの一つと捉えることができます。歯が動いているという実感にも繋がり、治療へのモチベーションを維持する助けになるかもしれません。しかし、全ての音が問題ないわけではありません。以下のような場合は注意が必要です。まず、音が非常に大きい、または突然「バキッ」というような破壊音がした場合です。これは、矯正装置の一部が破損したり、外れたりした可能性があります。また、音と共に強い痛みが生じたり、特定の歯だけが異常にグラグラしたりする場合も、担当の矯正歯科医に相談すべきです。無理な力がかかっていたり、何らかのトラブルが発生していたりする可能性が考えられます。矯正治療中に聞こえる「ミシミシ音」は、多くの場合、歯が頑張って動いている証拠です。
歯列矯正中のきしみ音の正体専門医による解説