歯列矯正を始めてからの一年間は、理想の歯並びを手に入れるための期待に胸を膨らませる一方で、様々な小さな試練に直面する時期でもあります。多くの人が経験する最初の試練は、やはり「痛み」でしょう。装置を初めて装着した時や、ワイヤーを調整した後の数日間は、歯が浮いたような、あるいは締め付けられるような鈍い痛みが続き、食事もままならないことがあります。この痛みは、歯が動いている証拠であり、通常は数日から一週間程度で和らぎますが、慣れるまでは精神的にも辛く感じるかもしれません。対処法としては、柔らかい食事を心がける、必要に応じて歯科医師に相談の上で痛み止めを服用するなどが挙げられます。次に多いのが「口内炎」です。ブラケットやワイヤーの端が頬の内側や舌に擦れて、痛みを伴う口内炎ができてしまうことがあります。これは非常に不快で、食事や会話にも支障をきたすことがあります。予防としては、装置が当たる部分に矯正用のワックスを貼り付けて保護するのが効果的です。できてしまった口内炎には、専用の軟膏を塗布したり、刺激の少ない食事を心がけたりすることが大切です。また、「装置の破損や脱落」も一年目に起こりうるトラブルの一つです。硬いものを不用意に噛んでしまったり、スポーツで口元をぶつけてしまったりすると、ブラケットが外れたり、ワイヤーが変形したりすることがあります。このような場合は、自己判断で放置せず、速やかにかかりつけの矯正歯科に連絡し、指示を仰ぐ必要があります。放置すると治療計画に遅れが生じたり、予期せぬ歯の動きを招いたりする可能性があるからです。食事の際の「食べにくさ」や「食べ物の挟まりやすさ」も、一年を通して続く試練かもしれません。特に繊維質の多い野菜や、お餅のような粘着性のある食べ物は、装置に絡みやすく、食後の歯磨きも大変です。外出先での食事など、すぐに歯磨きができない状況では、うがい薬や歯間ブラシを携帯するなどの工夫が必要になります。そして、意外と見過ごされがちなのが「モチベーションの維持」という精神的な試練です。治療期間が長期にわたるため、途中で不安や焦りを感じることもあるでしょう。そんな時は、治療開始前の自分の歯並びの写真を見返したり、歯科医師や歯科衛生士に治療の進捗状況を確認したりすることで、モチベーションを再燃させることが大切です。
歯列矯正一年目の試練とその克服