Aさん(30代女性)は、長年、前歯のデコボコと、少し開いた口元がコンプレックスでした。思い切って歯列矯正の相談に訪れた際、歯科医師から指摘されたのは、歯並びの問題だけでなく、「舌突出癖」という舌の癖でした。これは、無意識のうちに舌で前歯を押してしまう癖で、Aさんの開咬(前歯が噛み合わない状態)の原因の一つと考えられました。歯科医師は、歯列矯正装置で歯を動かすと同時に、MFT(口腔筋機能療法)と呼ばれる舌のトレーニングを行い、舌の正しい位置と使い方を身につけることの重要性を説明しました。Aさんは最初、舌のトレーニングと聞いてピンと来ませんでしたが、治療の効果を高め、後戻りを防ぐために不可欠であると理解し、積極的に取り組むことを決意しました。矯正装置が装着され、いよいよMFTもスタート。歯科衛生士の指導のもと、舌の先を正しいスポットにつける練習、舌全体を上顎に吸い付ける練習、正しい飲み込み方の練習など、地道なトレーニングが始まりました。初めのうちは、意識してもすぐに舌が元の位置に戻ってしまい、もどかしい思いもしたそうです。しかし、毎日少しずつでも続けるうちに、徐々に舌のコントロールができるようになってきました。特に効果を実感したのは、食事の時でした。以前はクチャクチャと音を立ててしまうことがあったそうですが、舌の使い方が変わったことで、静かに食べられるようになり、食べこぼしも減ったと言います。また、滑舌も良くなり、特にサ行の発音がクリアになったことを周囲から指摘されるようになったそうです。歯列矯正治療も順調に進み、約2年後、Aさんは見違えるように整った歯並びと、自信に満ちた笑顔を手に入れました。矯正装置が外れた後も、AさんはMFTで身につけた正しい舌の位置を意識し続けています。「歯並びが綺麗になったのはもちろん嬉しいですが、舌のトレーニングのおかげで、食べ方や話し方まで変わったことに驚いています。MFTを頑張って本当に良かったです」とAさんは語ります。彼女の体験は、歯列矯正が単に歯を美しく並べるだけでなく、口腔機能全体の改善にもつながることを示しています。そして、その鍵を握るのが「舌」の正しい使い方なのです。
歯列矯正とMFTで変わった笑顔