歯列矯正と一言で言っても、使用される装置には様々な種類があり、それぞれに特徴があります。では、装置の種類によってワイヤーの刺さりやすさに違いはあるのでしょうか。一般的に「ワイヤーが刺さる」というトラブルの多くは、歯列を整えるために使われる主線となるアーチワイヤーの端が、歯の移動に伴って余ってしまい、奥歯の後方から飛び出して頬の内側や歯茎に当たるケースや、ワイヤーをブラケットに固定するための細い結紮線(リガチャーワイヤー)の端が飛び出すケースです。まず、最も一般的な唇側矯正(歯の表側にブラケットを着ける方法)で使われるメタルブラケット、セラミックブラケット、プラスチックブラケットといった種類では、ブラケット自体が直接刺さる原因になることは稀ですが、アーチワイヤーの処理方法は共通の課題です。これらの装置では、歯の移動が進むとワイヤーが後方に余ってくるため、定期的な調整時に歯科医師が余った部分をカットしたり、端を丸めたりする処置が不可欠です。この処置が不十分だったり、次の調整までの間に歯が予想以上に動いたりすると、ワイヤーが刺さるリスクが生じます。近年普及しているセルフライゲーションブラケットは、ワイヤーをブラケットのシャッターやクリップで固定するため、従来の結紮線を使用しません。そのため、結紮線の端が飛び出して刺さるというトラブルは基本的に起こりませんが、アーチワイヤーが余って後方から飛び出す問題は、他の唇側矯正装置と同様に起こり得ます。次に、歯の裏側に装置を着ける舌側矯正(リンガル矯正)の場合、ワイヤーやブラケットの端が舌に当たりやすく、刺さると非常に強い痛みや不快感、発音障害を引き起こすことがあります。装置が複雑で口腔内の清掃も難しいため、ワイヤーの端の処理はより慎重さが求められ、患者さん自身も違和感に気づきにくい場合があるかもしれません。一方、マウスピース型矯正装置(例えばインビザラインなど)は、ワイヤーやブラケットを使用せず、透明なマウスピースを交換していくことで歯を動かすため、原理的にワイヤーが刺さるというトラブルはありません。ただし、マウスピースの縁が歯茎に当たって炎症を起こしたり、歯に装着するアタッチメント(小さな突起物)の角がシャープで舌や頬の粘膜に当たって痛むということは起こり得ます。