歯列矯正は美しい歯並びと健康的な噛み合わせを手に入れるための素晴らしい治療ですが、残念ながら「矯正を始めたら虫歯だらけになってしまった」という悲しい結果を招くこともあります。これは決して稀なケースではなく、矯正治療を受ける上で最も注意すべきリスクの一つと言えるでしょう。その最大の理由は、歯の表面に長期間装着される矯正装置の存在です。特にブラケットやワイヤーを用いた一般的な矯正方法では、これらの複雑な構造物の周りやワイヤーの下に食べ物のカスが非常に残りやすく、歯ブラシの毛先も届きにくいため、プラークの絶好の温床となってしまいます。プラークは虫歯菌の塊であり、これが長時間歯の表面に付着し続けることで歯のエナメル質を溶かし、虫歯を発生させるのです。また、矯正装置があることで唾液の自浄作用も低下しがちです。唾液には食べカスを洗い流したり、酸を中和したり、初期の虫歯を再石灰化したりする重要な役割がありますが、装置が邪魔をして唾液が歯面全体に行き渡りにくくなることも虫歯リスクを高めます。さらに、矯正治療中は装置の違和感や痛みから一時的に食事の回数が増えたり、だらだらと間食をしてしまったりする人もおり、これは口腔内が酸性に傾いている時間を長くし、虫歯のリスクをさらに高める行為です。治療期間が平均して1年半から3年程度と長期にわたることも、虫歯リスクが持続する要因となります。特に、元々歯磨きが苦手だったり、甘いものを好む食習慣があったりする人は、より一層の注意が必要です。矯正治療を始める前には通常、口腔内の検査が行われ、既存の虫歯は治療しておくのが原則ですが、矯正期間中に新たに発生する虫歯は患者さん自身の日常のケアにかかっている部分が大きいのが実情です。せっかく高い費用と長い時間をかけて歯並びを整えても、その歯が虫歯だらけになってしまっては元も子もありません。歯列矯正を成功させるためには、装置の特性を理解し、通常以上に丁寧で徹底した口腔ケアを実践することが不可欠であり、美しい歯並びと健康な歯の両方を手に入れるために、矯正中の虫歯リスクとその対策について正しい知識を持つことが何よりも大切です。
歯列矯正で虫歯だらけになる悲劇の背景