歯列矯正を始めた当初は、理想の歯並びを手に入れる期待で胸がいっぱいでした。最初の数日は装置の違和感や締め付けられるような痛みに耐え、徐々に慣れてきたと思っていた矢先、それは突然やってきました。ある日の食事中、左の頬の内側にズキッとした鋭い痛みが走ったのです。思わず「痛っ!」と声を上げ、何事かと鏡で口の中を恐る恐る確認すると、奥歯のブラケットからワイヤーの端がぴょんと飛び出し、それが粘膜に突き刺さっていました。血も滲んでいて、見た瞬間にパニックと絶望感に襲われたのを覚えています。痛みで食事はもちろん、話すことさえ辛くなり、どうすればいいのか分からず途方に暮れました。とりあえず、矯正開始時にもらっていた矯正用ワックスで保護しようと試みましたが、刺さっているワイヤーの先端が鋭く、唾液で濡れた粘膜のせいでワックスがうまくくっつかず、すぐに取れてしまいます。痛みは増すばかりで、その日はまともに食事もできず、夜も痛みでなかなか寝付けませんでした。翌朝一番で矯正歯科に電話し、状況を説明して急遽予約を入れてもらい、診てもらうことができました。歯科医師の先生は慣れた手つきで、飛び出したワイヤーの端を専用の器具でパチンとカットしてくれ、その瞬間、嘘のように痛みが引いていきました。本当に地獄から天国とはこのことかと思ったほどです。先生からは、「歯が動いてくると、ワイヤーが余って後ろから出てくることはよくあるんですよ。また刺さることもあるかもしれないので、ワックスは常に持ち歩いて、違和感があったら早めに保護してくださいね」とアドバイスを受けました。その後も、残念ながら何度かワイヤーが刺さる経験をしましたが、最初のパニックはなくなり、落ち着いてワックスで応急処置をし、早めに歯科医院に連絡するという対処ができるようになりました。矯正仲間と話すと、ワイヤーが刺さるというのは「矯正あるある」だということも分かり、少しだけ心が軽くなったものです。刺さるたびに「またか…」とため息が出ることもありましたが、鏡を見るたびに少しずつ綺麗に整っていく歯並びを見ると、この痛みも乗り越えられる、そう自分に言い聞かせながら矯正期間を過ごしました。ワイヤーが刺さる痛みは本当に辛いですが、それを乗り越えた先には素晴らしい笑顔が待っていると信じることが、何よりの支えでした。