マスクの着用が日常となった今、歯列矯正を始める人が増えています。マスクで口元が隠れるため、矯正装置の見た目を気にせずに治療を進められるという点が、大きな後押しとなっているようです。この「マスク時代」に歯列矯正を行うことには、確かにいくつかのメリットがありますが、同時に注意しておきたい点も存在します。まず、最大のメリットは、やはり審美的なハードルの低下でしょう。従来の金属製のブラケットやワイヤーは、どうしても目立ってしまい、治療中の見た目がコンプレックスになることがありました。しかし、マスクをしていれば、こうした装置が他人に見えることはほとんどありません。これにより、これまで見た目を気にして治療に踏み切れなかった人たちが、気軽に矯正を始めやすくなりました。治療初期の、装置に慣れるまでの話しにくさや、食べ物が挟まりやすいといった状況も、マスクがあれば周囲の目を気にせずに済みます。また、口内炎などのトラブルも、マスクで隠せる安心感があります。マウスピース型矯正装置(インビザラインなど)を選択する人にとっても、外出先でのマウスピースの着脱が人目を気にせず行えるという利点があります。一方で、注意点もいくつかあります。まず、マスクをしていると口元への意識が低下し、口腔ケアがおろそかになりがちになる可能性があります。矯正治療中は、装置の周りに汚れが溜まりやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。マスクで隠れているからといって油断せず、毎食後の丁寧な歯磨きや、デンタルフロス・歯間ブラシの使用を徹底することが非常に重要です。また、マスク内は湿度が高くなり、細菌が繁殖しやすい環境になることも指摘されています。これも虫歯や歯周病のリスクを高める可能性があるため、こまめな水分補給や、定期的なマスクの交換、そして何よりも口腔清掃をしっかり行うことが大切です。さらに、マスクをしていると口呼吸になりやすいという問題もあります。口呼吸は、唾液の自浄作用を低下させ、口腔内の乾燥を招き、虫歯や歯周病、口臭の原因となることがあります。歯列矯正の目的の一つに、鼻呼吸を促すことも含まれる場合があるため、マスクをしていても意識的に鼻呼吸を心がけることが望ましいでしょう。マスク時代の歯列矯正は、確かに始めやすい環境ではありますが、見えない部分での自己管理がより一層重要になります。
マスク時代の歯列矯正メリットと注意点