昔から、私の笑顔の悩みは、上の前歯の左隣の歯が一本だけ、ほんの少し前に出て、しかも少しねじれていたことでした。写真を撮るときはいつも無意識に口元を隠したり、歯を見せて笑うことに抵抗があったり。全体的にはそこまでひどい歯並びではないと思っていたので、全ての歯に装置をつける本格的な矯正にはなかなか踏み切れずにいました。「この一本さえどうにかなれば…」その思いがずっと心の片隅にありました。社会人になり、ある程度自分で自由になるお金もできた頃、ふと「一本だけ 矯正」とインターネットで検索してみたのがきっかけです。そこで「部分矯正」という治療法があることを知りました。早速、いくつかの矯正歯科クリニックのホームページを見て、部分矯正に力を入れているところを探し、カウンセリングの予約を入れました。初めてのカウンセリングでは、私の悩みを丁寧に聞いてもらい、レントゲンや歯型をとって詳しい検査をすることになりました。結果、私の場合は奥歯の噛み合わせには大きな問題がなく、気になる一本の歯とその周辺の歯を少し動かすことで改善が見込めるとのこと。治療法としては、目立たないように歯の裏側に部分的に装置をつける方法と、表側でも白いワイヤーと透明なブラケットを使う方法、そしてマウスピース型の部分矯正を提案されました。費用や期間、それぞれのメリット・デメリットを詳しく説明してもらい、私は表側の目立ちにくい装置で、気になる歯とその両隣の数本にだけブラケットをつける方法を選びました。治療期間は約八ヶ月、費用も全体矯正に比べればかなり抑えられるとのことでした。装置をつけた初日は、やはり口の中に異物がある感覚で少し話しにくく、食事も柔らかいものを選びました。数日間は歯が動くような鈍い痛みもありましたが、痛み止めを飲むほどではなく、徐々に慣れていきました。月に一度の調整日には、ワイヤーを締め直したり、細いワイヤーに交換したり。その度に、少しずつ歯が動いているのが実感できて、鏡を見るのが楽しみになりました。歯磨きは、装置の周りに汚れが残りやすいため、歯科衛生士さんに教えてもらった方法で時間をかけて丁寧に行いました。そして約八ヶ月後、ついに装置を外す日が来ました。鏡に映った自分の歯並びを見た瞬間は、本当に嬉しくて感動しました。あんなに気にしていた一本の歯が、綺麗に列に収まっているのです。
前歯一本だけを矯正した私の記録