歯列矯正中にワイヤーが頬や歯茎に刺さって痛い、という経験は決して珍しいことではありません。しかし、「少しチクチクするだけだから」「そのうち慣れるだろう」「歯医者に行くのが面倒」といった理由で、刺さったワイヤーを放置してしまうと、様々な問題を引き起こす可能性があります。まず、最も起こりやすいのが口内炎の発生と悪化です。ワイヤーの先端が粘膜に持続的に接触することで、その部分が刺激されて炎症を起こし、痛みを伴う口内炎ができてしまいます。小さな口内炎でも食事や会話の際に気になりますが、放置することで口内炎が大きくなったり、深くなったり、あるいは複数箇所にできてしまったりすると、日常生活に大きな支障をきたすことになります。痛みのために食事が十分に摂れなくなり、栄養バランスが偏ったり、体力低下に繋がったりする可能性も考えられます。また、口内炎の傷口は、口腔内の細菌にとって格好の侵入口となります。ワイヤーが刺さった状態を放置し、口腔内の清掃も不十分だと、傷口から細菌が感染し、炎症がさらに悪化したり、場合によっては化膿したりするリスクも高まります。特に免疫力が低下している時などは注意が必要です。さらに、ワイヤーが歯肉に食い込むように刺さっている場合、歯肉に直接的なダメージを与え、歯肉炎を引き起こしたり、長期的に見ると歯肉退縮(の原因になったりすることも考えられます。健康な歯肉は、歯を支える上で非常に重要な役割を果たしているため、このようなダメージは避けなければなりません。矯正治療そのものへの影響も無視できません。痛みや不快感が続くことで、患者さんの治療に対するモチベーションが低下したり、歯科医院への通院が億劫になったりすることがあります。また、ワイヤーが適切な位置にない状態で長期間放置されると、意図しない方向に歯が動いてしまったり、治療計画に遅れが生じたりする可能性も否定できません。そして、慢性的な痛みや不快感は、精神的なストレスにも繋がります。イライラしたり、気分が落ち込んだりすることで、QOL(生活の質)の低下を招くこともあります。このように、刺さったワイヤーを放置することには多くの危険性が伴います。たとえ小さな刺激であっても、我慢せずに矯正用ワックスで保護するなどの応急処置を行い、できるだけ早くかかりつけの矯正歯科を受診して、適切な処置をしてもらうことが非常に大切です。
刺さった矯正ワイヤーを放置するとどうなる?危険性を解説