歯列矯正治療を受ける際、多くの方が歯並びそのものに注目しがちですが、実は「舌の位置」も治療の成否や治療後の安定に大きく関わっています。正しい舌の位置とは、安静時に舌の先が上の前歯の少し後ろにあるスポットと呼ばれる位置にあり、舌全体が上顎に吸い付いている状態を指します。この位置にあることで、舌は上顎のアーチを内側から支え、歯並びを安定させる役割を果たします。しかし、多くの場合、無意識のうちに舌が低い位置にあったり、前歯を押してしまったりする「舌癖(ぜつへき)」が見られます。歯列矯正中にこの舌癖が改善されないと、せっかく整えた歯が後戻りする原因になったり、治療がスムーズに進まなかったりすることがあります。例えば、舌で前歯を押し出す癖があると、出っ歯(上顎前突)を助長したり、開咬(前歯が噛み合わない状態)を引き起こしたりする可能性があります。また、舌が低い位置にあると、下顎の歯列を内側から圧迫し、叢生(歯がガタガタに並ぶ状態)の原因になることも考えられます。歯列矯正治療を開始するにあたり、歯科医師や歯科衛生士から舌の位置について指導を受けることがありますが、それはこのような理由があるからです。矯正装置がついている間は特に、舌の動きが制限されたり、装置に当たって口内炎ができやすくなったりすることもありますが、意識して正しい位置を保つトレーニングを行うことが重要です。舌のトレーニングには、舌をスポットにつけて唾を飲み込む練習や、舌全体を上顎に持ち上げる練習などがあります。これらのトレーニングを継続することで、正しい舌の位置が習慣化され、歯列矯正治療の効果を高め、治療後の後戻りを防ぐことにつながるのです。美しい歯並びを手に入れ、それを長期間維持するためにも、歯列矯正と舌の関係性を理解し、積極的に舌のトレーニングに取り組むことをお勧めします。
歯列矯正と舌の正しい位置