佐藤さん(30代女性)は、上の前歯の真ん中、正確には左側の中切歯と側切歯の間に、数年前から少しずつ隙間が空いてきたことに悩んでいました。笑うと目立つその一本の歯の隙間が気になり、人前で思い切り口を開けて笑うことに躊躇いを覚えるようになっていました。他の歯並びには特に大きな不満はなかったため、全体的な歯列矯正には抵抗がありましたが、「この隙間だけどうにかならないか」という思いで、部分矯正の実績が豊富な歯科クリニックの門を叩きました。初診カウンセリングで、佐藤さんは担当の矯正歯科医に長年の悩みを打ち明けました。歯科医師はまず、佐藤さんの口腔内全体を丁寧に診察し、レントゲン撮影や歯型の採取などの精密検査を行いました。その結果、奥歯の噛み合わせには大きな問題はなく、問題の隙間も歯周病などが原因で進行しているわけではないことが確認されました。そして、佐藤さんの希望通り、部分的な矯正治療で隙間を閉じることが可能であると診断されました。治療計画として提案されたのは、問題の隙間がある歯とその両隣の数本の歯にのみ、白いセラミック製の目立ちにくいブラケットと細いワイヤーを装着する方法でした。治療期間の目安は約半年、費用も全体矯正に比べると大幅に抑えられるものでした。佐藤さんは、治療内容と期間、費用について十分な説明を受け、納得した上で治療を開始することを決意しました。数週間後、いよいよ矯正装置が装着されました。最初の数日間は、装置による多少の違和感と、歯が動くような軽い痛みを感じましたが、日常生活に大きな支障が出るほどではありませんでした。歯科医師の指示通り、毎月一度の調整に通い、ワイヤーの交換や微調整が行われました。その度に、少しずつ隙間が狭まっていくのを実感でき、佐藤さんの治療へのモチベーションも高まっていきました。特に気を使ったのは歯磨きで、ブラケットの周りに汚れが残らないよう、専用の歯ブラシや歯間ブラシを使って丁寧にケアを続けました。そして、予定通り約半年後、ついにブラケットが外されました。鏡で自分の歯を見た佐藤さんは、気にしていた隙間がすっかり閉じ、前歯がきれいに並んでいることに感動しました。「たった半年で、こんなに変わるなんて」と、その喜びを隠しきれない様子でした。治療後は、後戻りを防ぐための透明なマウスピース型のリテーナーを夜間に装着しています。