歯列矯正を決意し、初めてカウンセリングに訪れた日。レントゲン写真を見ながら歯科医師から告げられた「上下左右、計4本の抜歯が必要です」という言葉は、私の心を深くえぐりました。長年のコンプレックスだったガタガタの歯並びを治したい。でも、そのために虫歯でもない健康な歯を4本も失わなければならないなんて。どうしても、その決断ができませんでした。そこから、私のクリニック巡りが始まりました。セカンドオピニオン、サードオピニオンと、いくつかの矯正歯科を訪ねましたが、答えはどこも似たようなものでした。「あなたの顎の大きさでは、歯を綺麗に並べるスペースが足りない。抜歯しないと出っ歯になってしまいますよ」。そう言われるたびに、私の心は矯正治療そのものから離れていきました。そんな時、インターネットで「非抜歯矯正」に力を入れているというクリニックを見つけ、最後の望みをかけて訪ねてみることにしたのです。そこで出会った先生は、私の「歯を抜きたくない」という気持ちに、初めて真剣に耳を傾けてくれました。そして、提示されたのが「歯科矯正用アンカースクリュー」を用いた治療法でした。奥歯の近くの歯茎に小さなネジを埋め込み、それを支えにして歯列全体を後方へ動かすことで、抜歯をせずにスペースを作り出すというのです。もちろん、口元の突出感は抜歯した場合ほど劇的には改善しないかもしれない、という説明も受けました。それでも、私にとっては健康な歯を守れることの方が、何倍も価値があるように思えました。治療は決して楽ではありませんでしたが、歯が少しずつ動いていくのを実感するたび、自分の選択は間違っていなかったと確信しました。そして約2年半後、装置が外れた私の口元には、綺麗に整った歯並びがありました。専門家が見れば、少し口元が出ているのかもしれません。でも、私にとっては、自分の大切な歯を一本も失わずに手に入れた、最高の笑顔なのです。