「しゃくれた顎」や「受け口」とも呼ばれる下顎前突は、見た目のコンプレックスだけでなく、噛み合わせや発音、咀嚼機能にも影響を及ぼすことがある歯並びの一つです。下の歯が上の歯よりも前に出ている状態を指し、その原因は大きく分けて二つあります。一つは、歯の傾きや位置関係だけが問題である「歯性」のもの、もう一つは、下顎の骨が上顎の骨に対して過成長している、あるいは上顎の成長が不十分であるなど、顎の骨格のバランスに問題がある「骨格性」のものです。歯列矯正治療でどこまで改善できるかは、この原因によって大きく異なります。歯性の下顎前突であれば、歯を動かすことによって比較的良好な改善が期待できます。例えば、下の前歯を後ろに傾けたり、歯列全体を後方に移動させたりすることで、上下の歯が正しく噛み合うように導きます。この場合、一般的なワイヤー矯正や、症例によってはマウスピース型矯正装置も選択肢に入ることがあります。治療期間は、歯の移動量や個人差にもよりますが、おおむね1年から3年程度が目安となるでしょう。一方、骨格性の下顎前突の場合、特にその程度が著しい場合は、歯の移動だけでは十分な改善が難しいことがあります。歯を動かせる範囲には限界があり、無理に歯だけで治そうとすると、歯に負担がかかったり、不安定な噛み合わせになったりする可能性があるからです。このようなケースでは、歯列矯正に加えて、顎の骨を切って位置を調整する外科手術(顎変形症手術)を併用する「外科的矯正治療」が必要となることがあります。外科的矯正治療は、まず術前矯正で手術後に歯がしっかり噛み合うように歯並びを整え、その後、顎の骨の手術を行い、術後矯正で最終的な噛み合わせを完成させるという流れで進められます。手術を伴うため、入院が必要となり、治療期間も全体で2年から3年以上かかることが一般的です。しかし、骨格的な問題を根本から改善できるため、機能的にも審美的にも大きな変化が期待できます。しゃくれた顎に悩んでいる場合、まずは矯正歯科専門医に相談し、精密な検査を受けることが重要です。レントゲン撮影や歯型採得、顔貌写真撮影などを行い、歯性なのか骨格性なのか、その程度はどのくらいなのかを正確に診断してもらう必要があります。