近年、私たちの生活に欠かせないアイテムとなったマスク。実はこのマスク生活が、歯列矯正を始めるきっかけになったり、治療中の心理的なハードルを下げたりする上で、意外な役割を果たしているようです。歯列矯正というと、歯の表面に装着するブラケットやワイヤーといった装置が目立つことを気にされる方が少なくありません。特に、接客業の方や人前に出る機会が多い方にとっては、治療中の見た目が大きな悩みとなり、治療に踏み切れない理由の一つにもなっていました。しかし、マスクを日常的に着用するようになり、口元が隠れる時間が増えたことで、この心理的なハードルが大きく下がったと感じる人が増えています。マスクで口元を覆っていれば、矯正装置が他人に見えることはありません。「どうせマスクをしているから、今のうちに矯正を始めよう」と、以前は見た目を気にして躊躇していた人たちが、この機会を捉えて治療を開始するケースが増えているのです。また、治療初期にありがちな、装置に慣れるまでの話しにくさや、食べ物が挟まりやすいといったちょっとしたトラブルも、マスクをしていれば周囲の目を気にせずに済みます。口内炎ができてしまっても、マスクで隠せる安心感があるでしょう。さらに、マウスピース型矯正装置(インビザラインなど)を選択する方にとっても、マスク生活はメリットがあるかもしれません。マウスピース型矯正は、食事や歯磨きの際に自分で取り外す必要がありますが、外出先で人目を気にせず着脱できるのは、マスクをしているからこそ、という側面もあるでしょう。ただし、マスク生活が歯列矯正にとって良いことばかりとは限りません。マスクをしていると、口元への意識が薄れ、口腔ケアが疎かになりがちになるという声も聞かれます。矯正治療中は特に虫歯や歯周病のリスクが高まるため、マスクをしていても、丁寧な歯磨きや定期的な歯科医院でのケアは不可欠です。また、マスクで口元が隠れることに慣れすぎてしまうと、いざマスクを外す生活に戻った時に、改めて口元が気になってしまうという可能性も考えられます。とはいえ、歯列矯正を検討しているけれど、装置の見た目がネックになっていた方にとって、マスク生活は治療を始める絶好の機会と捉えることができるかもしれません。
歯列矯正とマスク生活の意外な関係