新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの生活様式に様々な変化をもたらしましたが、その一つに「歯列矯正ブーム」とも言える現象が起きています。なぜ、このような状況下で歯列矯正治療を受ける人が増えているのでしょうか。その背景には、いくつかの要因が複合的に絡み合っていると考えられます。最も大きな要因として挙げられるのが、やはり「マスクの日常化」です。パンデミック以前は、歯列矯正装置(特に表側のワイヤー矯正)の見た目が気になるという理由で、治療を躊躇する人が少なくありませんでした。しかし、外出時には常にマスクを着用することが一般的になり、口元が隠れる時間が増えたことで、この審美的なハードルが大幅に下がりました。「どうせマスクをしているから、今のうちに治してしまおう」と考える人が増えたのは自然な流れと言えるでしょう。次に、「在宅時間の増加」も影響していると考えられます。テレワークやオンライン授業の普及により、自宅で過ごす時間が増えたことで、これまで忙しくて通院の時間が取れなかった人や、治療初期の不快感(痛みや話しにくさなど)を自宅で乗り越えたいと考える人が、この機会を利用して治療を開始するケースが増えています。また、外出やレジャーの機会が減ったことで、これまでそちらに費やしていた費用を、自己投資として歯列矯正に充てるという人もいるかもしれません。さらに、「健康意識の高まり」も無視できない要素です。パンデミックを通じて、多くの人が自身の健康について改めて考えるようになりました。歯並びや噛み合わせは、単に見た目の問題だけでなく、虫歯や歯周病のリスク、咀嚼機能、発音、さらには全身の健康にも影響を与えることが知られています。こうした認識が広まり、健康増進の一環として歯列矯正を選択する人が増えている可能性も考えられます。ただし、この「ブーム」とも言える状況の中で注意したいのは、安易な情報に流されず、信頼できる医療機関で適切な診断と治療を受けることです。マスクで口元が見えないからといって、口腔ケアを怠ってしまっては本末転倒です。また、治療期間や費用、メリット・デメリットなどを十分に理解し、納得した上で治療を開始することが重要です。
コロナ禍と歯列矯正ブームの真相