営業職として働くD君は、明るい性格と真面目な仕事ぶりで上司や同僚からの信頼も厚かった。しかし、彼にはたった一つ、大きな悩みがあった。それは、子供の頃からコンプレックスだった、がたがたの歯並びだ。特にお客様と対面で話すとき、相手の視線が自分の口元に注がれているような気がして、自信を持って話すことができなかった。提案内容には自信があるのに、歯並びのせいでどこか説得力に欠けるのではないか。そんな思いが、彼の営業成績にも影を落としていた。そんな彼を見かねた先輩が、ある日こう言った。「D、一度、矯正歯科の相談に行ってみたらどうだ?見た目が変われば自信がつく。自信がつけば、お前の言葉はもっと相手に響くようになるぞ」。その一言に背中を押され、D君は歯列矯正を決意した。治療は決して楽ではなかった。食事の制限や毎月の調整、そして何より、営業という仕事柄、口元の装置が気になった。しかし、彼は「これは未来の自分への投資だ」と歯を食いしばった。治療が進み、歯が少しずつ動いていくにつれて、彼の心にも変化が訪れた。鏡を見るのが苦痛ではなくなり、むしろ少しずつ整っていく歯並びを見るのが楽しみになった。そして2年後、ついに装置が外れた。鏡に映っていたのは、爽やかな笑顔を浮かべる、別人のような自分だった。その日を境に、D君の営業スタイルは劇的に変わった。お客様の前で、彼は口元を隠すことなく、堂々と、そして満面の笑みで自社の商品を語った。彼の言葉には以前にはなかった熱と自信が宿り、次々と大きな契約をまとめていった。社内でも「最近のDは人が変わったように頼もしい」と評判になった。歯並びというたった一つのコンプレックスが解消されただけで、彼の持つ本来のポテンシャルが、ようやく花開いたのだ。口元が変われば、表情が変わる。表情が変われば、自信がつく。そして自信は、その人の人生そのものを、より輝かしいものへと変えていく力を持っている。D君の物語は、そのことを雄弁に物語っている。