歯列矯正における抜歯と非抜歯の選択は、最終的な仕上がり、特に口元や横顔の審美性に大きな違いをもたらします。あなたが矯正治療に何を求めているのかによって、どちらが最適な選択となるかは変わってきます。ここでは、典型的な症例をもとに、その仕上がりの違いを具体的に見ていきましょう。例えば、前歯が前方に突出している、いわゆる「出っ歯（上顎前突）」のケースを考えてみます。この場合、非抜歯で治療を行うと、歯のガタガタは解消され、歯並びそのものは綺麗になるかもしれません。しかし、歯を並べるスペースを前方に求めた結果、口元の突出感はほとんど改善されないか、場合によっては少し悪化することさえあります。横顔の美しさの指標であるEライン（鼻先と顎先を結んだ線）の内側に唇が収まらない、という状態はそのまま残る可能性が高いのです。一方、同じ症例で小臼歯などを抜歯して治療を行うと、全く異なる結果が得られます。抜歯によって作られた大きなスペースを利用して、突出していた前歯を劇的に後方へ移動させることができます。その結果、口元全体がすっきりと内側に収まり、Eラインの内側に唇が綺麗に収まる、洗練された横顔を手に入れることが可能になります。これは、歯がデコボコに重なり合っている「叢生」のケースでも同様のことが言えます。非抜歯で治療すると、歯列のアーチを横や前に広げてスペースを作るため、歯並びは整っても、顔全体の印象としては少し口元が前に出たような仕上がりになることがあります。対して、抜歯を行えば、歯列全体を内側に入れることができるため、より引き締まったシャープな口元にすることが可能です。つまり、「歯並びの乱れだけ」を改善したいのか、それとも「口元の突出感や横顔のバランスまで」をトータルで改善したいのか。あなたの治療目標がどこにあるのかを明確にすることが、抜歯か非抜歯かという、大きな決断を下す上での最も重要な羅針盤となるのです。